Festival Report フェスティバル レポート 2019

緑のアイツは今どこに?/ジェンガ金次郎

 大体の人が、小学校で会ったことがある、緑のアイツ。もしこれを読んでいる君が今、小学生くらいだとしたら、お兄さんやお姉さん、それがダメでも、お父さん、お母さんくらいになれば「ああ、知ってる。」と言うことだろう。それが二宮金次郎だ。
 ちょっと前ならたいていの小学校の校庭には、アイツが立っていた。でも近頃じゃ、「歩きスマホをしてもいい理由になっちゃうからダメ!」とか何とか言われて、どんどん学校から追い出されているらしい。何とも世知辛い話だ。

 でも忘れちゃいけない。彼は江戸時代においては一番に頭の切れる農政家、なーんて言われたやり手実業家の代名詞みたいなヤツだったんだ。ただ黙って追い出されるはずはない。少なくともそのうち一人は今、静岡にやって来ている。(なんでも東京は練馬区の小学校からやってきたというウワサもあるが、それが本当かどうかは定かではない。)

 薪の代わりにジェンガを背負って…。

 上から下まで緑づくめなのに、ぎょろっとした白目がよく目立つアイツは、常にジェンガの勝負相手を探している。その射抜くような眼差しが止まった先にいた君が、今日の勝負相手に決定だ。

 もちろんアイツは銅像なんで口は利けない。でも、ちゃーんと相手にわかるように、手に学問の本ではなく、レストランのメニュー表みたいなトリセツを持ち歩いている。それを読めば、一発でルールが分かるって寸法だ。さすが天下の二宮金次郎、何かと行き届いている。



 だが、ジェンガの勝負に入ったとたん、アイツの表情は一変する。どうにかこうにか、相手に次のジェンガの一本を抜かせるまい、と言わんばかりに狡猾(こうかつ)に輝く瞳にはもう、あの頃、校庭で子どもたちに「まじめに勉強しろよ。」と無言で訴えていた姿の、影も形もない。
 子どもだからってアイツは容赦しない。一番イヤな一本を抜いてくる。相手が負けたら、実にうれしそうに全力で喜びを表現し、自分の首にジェンガのメダルをかけさせる。さらにその後には屈辱の「お片づけタイム」までが周到に用意されている始末。

 でもだからってがっかりする必要はない。ヤツは陰でこっそりボヤいていたのだ。
「どうも静岡の奴らには勝ちにくい。」と―。

 その証拠に、ヤツは静岡の子どもに何回も敗北を喫し、大人とはいえ一度は秒殺される羽目に陥った。そんな時ヤツは、がっくりと地面に四つんばいになり、自分のための悲しみの音楽を、ろうろうと流すのだ。そして涙をこらえて勝者の首にジェンガのメダルをかけ、勝利の証カードをこっそりと渡してくれるのである。



 そんなヤツ・ジェンガ金次郎の、今の最大の野望はもちろんただ一つ。
 「静岡をジェンガで征服すること!!」
 
 だからこんなヤツを、今回の敗北すら、完全にへこませることはできない。
 「いつでもかかって来ーい!」という雄叫びを残し、会場を去っていくジェンガ金次郎。
 迎え撃て!静岡に集いし民よ!

 そうすればアイツは修行の旅の果てに、何度だって静岡に帰ってきてくれるはずだ。

(晴)

2019フェスティバルレポート / アーティスト オン部門
2019/11/03 06:36 PM
<<次の記事 前の記事>>