Festival Report フェスティバル レポート 2025
まるで生きているようなマリオネットたち/ジプシーマリオネティスト
大勢の観客の集まる会場。彼らの視線は演者の足元に向けられている。そこにいるのは1体のマリオネット。精巧な木彫りのマリオネットは糸につられ、パフォーマーの腰のあたりを舞った。その姿は、まるで生きているようだ。
ジプシーマリオネティストを手がけるのは、ラシッド・ニコリッチ。イタリアから来た彼は、持ち前のコミカルさで登場から観客を魅了した。「日本語は話せません」と言いながら、その手には数枚の紙。それを見ながら、彼は日本語での説明を始めた。
彼が大切にしていること、それはパフォーマンスを通して観客に自分のことを知ってもらうことなのだという。観客との意思を通わせるためにその言語をできるだけ話すのだと、彼は語った。だから、日本語はわからないが、できるだけ話す努力をする。それが面白く思われてもかまわないのだ、と。
ラシッドは今回、パフォーマンスの2日前から日本語を学んだのだという。用意したセリフは、大道芸スタッフの協力もあったのだそうだ。その甲斐もあってか、ラシッドが日本語で話した時の観客のウケは抜群だ。
ラシッドの操るマリオネットは、すべて彼が作ったものだ。今回のパフォーマンスで使ったのは3体。全部で13体あるのだそう。
まず登場したのは、骸骨のマリオネットだ。観客の一人を呼び寄せ、ステージで骸骨と同じポーズを取らせるなどコミカルな演技が光った。
次に登場したのは、赤いドレスを着た女の人。ラシッドの姉妹にインスパイアされたというそのマリオネットは、通常は4、5か月制作にかかるところを6か月を要したというだけあって、細かな動きまで表現されていた。
最後に登場したのは、虎のマリオネットだ。まるで本物のように走る虎の動きはしなやかであった。
3体のマリオネットは、すべて本当に命のあるように動く。それを操るラシッドの腕は本当に見事なものだ。
コミカルで楽しいラシッドのしゃべりと生き生きとしたマリオネット。この2つの融合した最高のパフォーマンスをぜひ一度体験してみてはどうだろうか。
(Elle)

2025/11/01 16:23
