Festival Report フェスティバル レポート 2024
観客との信頼を築きながら、舞台は創られるのだ。 / ソ・ナンジェ
優雅に結い上げた長髪に、整った髭。ダンディーな風貌をみせる人物が、静岡の舞台に立った。
彼は韓国出身のポールダンスパフォーマー、ソ・ナンジェだ。
一見もの静かな佇まいを見せる彼だが、観客を愛し、信頼を大切にし、熱いハートを持つ漢であった。
彼の危険なパフォーマンスは、観客との信頼関係によって支えられていたのである。
ポールダンスを披露するためには、棒を縦に何本もつなげ、長い棒を作らなければならない。しかし、それは彼一人だけの力では成しえないことである。
まず観客の一人に棒を持たせ、自分が持っている棒とつなげてもらう。棒の長さが彼の身長を超えると、今度は他の観客に声をかけた。肩車をしてもらいながら、棒をさらに縦につなげていく。こうしてできた棒は、彼の身長の3倍にはなっただろうか。
また、棒にはロープが4本括りつけられている。4人の観客を呼び、そのロープを持ってもらう。4方向に引っ張る力のバランスで、棒を垂直に保たせるのである。こうして最後は、観客の力を借りて立った棒に登り、やっとのことでポールダンスを披露できたのである。
ただ、一人でも間違って手を放しては、棒は即座に倒れてしまうだろう。命の危険すらある。
なぜ、こんなにも人を信頼できるのであろうか?演技後に彼に尋ねてみた。
はじめに棒をつなげてもらい、肩車をしてもらうというように、小さなお手伝いからお願いするのが重要なのだという。
人はだれしも初対面でいきなり助け合うことは難しいだろう。いきなり棒を支えてもらうのは本人も怖いという。少しずつコミュニケーションをとり、段階を経ていくことで、信頼関係が築かれるのだという。
また、彼は派手な衣装は身にまとわない。あくまで観客と同じ視点に立ち、自然と染まっていくことを大切にしているという。
彼は元々はジャグリングを本業としており、2018年の大道芸の大会で、Performer Syo!さんを観て、自分もポールで演技をしたい!という希望を持って始めたそうだ。
当時の韓国には競技人口が少なく、そんな中でもYouTubeやフランス渡航で必死に技術を磨いてきただ。
来日前は、日本の観客は消極的なのだろうかと不安だったそうだが、実際のステージでは温かい拍手もあり喜んでいた。
彼を見かけた際には、温かい拍手で迎えるとともに、ぜひあなたも手に汗を握るこの現場に当事者として参加してほしい。きっと彼は、協力してくれたあなたと熱い抱擁を交わしてくれるだろう。
(りゅりゅ)
2024/11/03 05:26 PM