Festival Report フェスティバル レポート 2023
身近な道具を自在に操る「赤い凄腕マジシャン」は健在だった / 紙磨呂
全身赤の装束に包まれた紙磨呂氏の演技は準備中から始まっていた。明らかに準備中だと思われる動きすら洗練されたパフォーマンスに見える。
その様子に感心しながら「準備のパフォーマンス」に見入っていたら、彼はおもむろに英語でスタートと書かれたプレートを観客に見せながら演技本番に入った。
準備中の作業すらパフォーマンスにしてしまう手腕はさすが熟練の凄腕マジシャン。過去に何度も大道芸ワールドカップに出場している実力者は今も健在だ。いや演技のレベルは過去の大会で観た時よりもより一層洗練されているように見える。
一言も言葉を発しない静かな演技なのに、観客席は大いに盛り上がっていた。紙磨呂氏が観客と絡みながら魔訶不思議なマジックを次々と成功させていくからだ。
そのたびに観客が「え?今の何?」「すごい!」といった表情をしながら大きな歓声を上げる。広報スタッフAもこれが取材であることを忘れてパフォーマンスに見入ってしまった。
紙磨呂氏が使うマジック道具は、バケツ、紐、トランプ、缶飲料、紙など誰でも使うごくごく身近な道具が多い。しかしその道具が紙磨呂氏の手にかかると、急に命が吹き込まれたように見え隠れしたり、変幻自在に形を変えたりして観客を驚かせるのだ。
中でも圧巻だったのが、くしゃくしゃにした紙を燃やしたら桜吹雪になって宙を舞った最後のマジック。また、マジック道具と思われる「継ぎ目のないフープ」を自在につなげたり離したりするマジックも圧巻で、観客席からひときわ大きな歓声が上がっていた。
紙磨呂氏の過去の演技は何度か見ていたが、一言も話さない静かな演技でこれだけ観客を惹きつける。「赤いマジシャン・紙磨呂」はやっぱりすごい、と改めて思った。
そんな彼の温かい人柄がにじみ出たのが、演技終了後の短いトークタイムの時だった。何年かぶりに大道芸ワールドカップに戻ってきた紙磨呂氏は、観客に向けて大変心のこもった声でこう言ったのだ。
「大道芸ワールドカップは(自分にとって)とても大事な大会です……ただいま!」
その温かい言葉で紙磨呂氏がこの大会を本当に大事に思ってくれていることが感じられ、こちらまで温かい気持ちになった。その言葉を聞いた観客から「おかえりぃ!」という声が聞こえてきてさらに温かい気持ちになった。
大道芸ワールドカップはまだ2日間残っているので、どこかの会場でまた紙磨呂氏に会える人もいるかもしれない。その時はぜひ彼に「おかえりなさい!」と声を掛けてほしい。きっと「ただいま!」と返してくれるに違いない。
(広報スタッフA)
2023/11/03 08:41 PM