Festival Report フェスティバル レポート 2023

15分間の異世界旅行へ / Vertical Connection



 淡い赤紫(マゼンタ)色のヴェールを羽衣のように巻き付かせ、空中を微笑みながら踊る天女のような女性。腕を、肩を、聞かん坊のリスの子どものように嬉し気に弾み、最後には主である男の頭にすっぽりと収まる山高帽。

 アコーディオンが軽やかに歌い、時に人の手ではなく、天女と山高帽が鍵盤を押しているんじゃないか、と錯覚してしまいそうなタイミングで、2人が何かするたびに陽気な笑い声を立てる。

 そんな3人のパフォーマンスがオーバーラップすると、まるでアニメの美しいエンディング動画を見ているような気分になる。

 しかも観ている側は、これらが人間の想像力で自在に描ける「絵」でもなく、CGでもなく、リアルな生身の人間のパフォーマンスのみで創り上げられているのだと知っているから、何だか奇跡の場所に居合わせているみたいに思える。それも幸せな奇跡に――。

 かつて「空転軌道」というアーティストを同じ静岡の大道芸ワールドカップで観たことがある人なら、この山高帽の主・小林智裕のジャグリングに魅了されたことを思い出すかもしれない。

 そんな彼が、「K転軌道」というパフォーマンス・グループでアコーディオン奏者の桐山ショウゴとコネクト、つまり繋がりを持った。小林のジャグリングに豊かで明るい音色が加わったのだ。

 彼らのパフォーマンスに桐山を通してエアリアリストのMIKAがコネクトした。視覚的にもパフォーマンスの質でも2人の世界はさらに高く、天に向かって伸びあがっていく。そんな「コネクト」が重なり合って、3人のパフォーマンス・ユニット、「Vertical Connection」は誕生した。



 3人の持ち味はそれぞれ違う。でも、組み合わせただけで美しい絵が描かれるわけではない。耳に不愉快な不協和音が生まれることだってある。そんなことはパフォーマンスを観に来た大抵の人が知っているだろう。けれどその素材を使って、Vertical Connectionはとても美しい世界を練り上げた。

 それってどんな世界なのか?こればっかり、その時その場にいなければ味わえない。観てのお楽しみだ。

 演技時間は15分。その15分間だけでも「世界はこんなにも明るくて美しくて楽しい」と信じたくなるステージだ。あなたも一度、目にしてみてはいかがだろうか。

(晴)

2023フェスティバルレポート / アーティスト オンステージ
2023/11/03 05:05 PM
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